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連載インタビュー「私とアフリカ、私とTICAD」【3】稲場雅紀さん

市民ネットワーク for TICADインタビュー原稿 :

TICADはこれまで開催回数を重ね、来年で第6回目となります。連載インタビュー「私とアフリカ、私とTICAD」では、これまでTICADに関わってきた人々にお話を伺い、TICADの歴史を振り返ります。
インタビュー3回目の今回は、「アフリカ日本協議会」の国際保健部門ディレクター、NGOネットワーク「市民ネットワーク for TICAD」の世話人や、「動く→動かす」の事務局長として活躍される稲場雅紀さんにお話を伺いました。

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《略歴》
1990年~1994年 寿日雇労働者組合 医療班・事務局責任者として横浜市寿町の日雇労働者の保健・医療の問題に取り組む。
1994年~2001年 NPO法人「動くゲイとレズビアンの会」にてアドボカシー部門ディレクターとして性的少数者の人権問題や国内外のエイズ問題などに従事する。
2002年~現在 「アフリカ日本協議会」(AJF)の国際保健部門ディレクターとして主にアフリカのエイズ問題についての調査や政策提言を進める。
2008年 TICADやG8洞爺湖サミットにて日本の市民社会の立場から政策提言を行う。
2009年~現在 MDGs達成のためのNGOネットワーク「動く→動かす」(GCAP Japan)の事務局長を務める。
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【問】稲場さん、こんにちは。本日はどうぞよろしくお願いします。早速ですが、稲場さんは2008年より本格的にTICADに関わっていらっしゃいますね。

【稲場】TICAD自体には2003年から関わっていました。2003年のTICADではHIV/エイズ関係の保健分野中心でしたが、2008年のTICAD IVから、開発に関わる課題全般に活動を拡大しました。TICAD IVについては、「TICAD市民社会フォーラム」という団体がTICAD IVに向けた活動の中心となり、アフリカ日本協議会は、むしろ、同年7月に開催されたG8洞爺湖サミットに向けた取り組みの流れの中でTICADにも関わりました。

【問】次のTICAD V(2013年)においても、稲場さんは中心的な市民社会の代表として役割を担われました。TICAD Vについてどのように捉えられていますか。

【稲場】TICAD Vは、様々な点において、TICADプロセスに大きな変化をもたらした会議だったと考えています。一つ目の変化は、TICAD IV終了後の2009年より毎年、アフリカでTICADのフォローアップ会議が始まったことです。UNDPがコーディネートして、毎回、5名のアフリカの市民代表者が会議に参加し、市民社会の役割が注目されるようになりました。TICAD Vに向けては、当初、「動く→動かす」の中に「TICADアドボカシーチーム」を組織して関わってきました。アフリカにおける市民社会との連携が深まり、層が厚くなったと感じています。

また、2008年以降の国際情勢の変化もTICAD Vに大きく影響を与えるものでした。TICAD IVが開催された2008年時点では、ミレニアム開発目標に関わる動きの全盛期だったこともあり、日本として、アフリカがかかえる社会的な問題の解決を支援しようという関係性の下で進んでいました。しかし、2008年末からのリーマンショックで、世界の経済構造が大きく変化しました。先進国の経済力が落ち、アフリカを含む新興国・途上国が世界経済の主役の一つになったのです。また、2011年の東日本大震災も大きなインパクトを与えました。震災で被害を受けた日本にアフリカ諸国が義捐金を送るという、今までとは逆の関係が生じたのです。その結果、それまでの「日本がアフリカを『助ける』」という関係から、「互いに経済成長を模索する」という関係へと、象徴的な変化が生じたのです。さらには、中国やトルコ、韓国などもアフリカとの間でそれぞれTICADと似たイニシアティブを形成し、アジアの国が主導するアフリカ開発の議論の場はTICADのみではなくなりました。

さらに、2011年から、アフリカ連合委員会(AUC)がTICAD共催者の一つとなりました。もともとTICADは、主権国家である日本と、国際機関である国連本部(アフリカ特別顧問室)、国連開発計画(UNDP)、世界銀行が主催していましたが、そこに主権国家という要素を持つ主体がもう一つ入ったわけです。これは会議のバランスを大きく変えました。

このような変化から、日本は、それまでの姿勢を見直し、アフリカの事情に対応する必要性が生じました。そういった中で開催されたTICAD Vは、TIVAD VI以降の転換へもつながる重要なものであったと認識しています。

【問】TICAD VI以降、3年に一度、アフリカと日本で交互にTICADが開催されることとなりました。このようなTICADの転換点において、日本のアフリカ外交をいかにみていらっしゃいますか。

【稲場】アフリカ連合や、アフリカ諸国、地域経済共同体(RECs)などとの間で、どのように戦略的に連携を強化していくのか、アフリカ諸国と柔軟な関係性を作っていくのかということがカギであると考えています。日本政府は、このところ毎年、国連総会の際に、アフリカの各地域の経済共同体(RECs)の首脳会議を開催しています。これは、TICADにおける日本とアフリカ連合との関係を考えても、巧みな戦略といえます。一方、アフリカ連合の中で力を持っている国は、大国意識などから日本と必ずしもうまくいかないこともあり、日本外交として、巧みな戦略・戦術の行使が必要であることは論を待ちません。このような中で、「日本の外交」としてTICADを考える場合には、TICADを柱にしながら、アフリカと日本の関係をどのように継続し、転換していくのかという点が重要なのだろうな、と思います。

一方、私たち市民社会は、より率直に、アフリカの市民の利益に資するTICADを目指して政策提言する必要があります。そのためには、私たちも、まだまだ弱い日本とアフリカの市民社会の関係をどう強化していくか、また、日本政府だけでなく、他の共催団体や、アフリカ諸国の政府、在京のアフリカ大使館との関係をどうしていくかについて、より巧みな戦略・戦術を持つ必要があるな、と感じています。

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【問】アフリカ開発におけるNGOの役割はどのように考えていらっしゃいますか。

【稲場】アフリカ開発において日本が果たせる肯定的な役割を伸ばしていくことが、TICADに関わるNGOにとってまず重要なことだと思います。アフリカを全体としてとらえた場合、一つ考えられるのは、日本がいかにして、「パン・アフリカニズム」 に立脚した開発の方向性を支持し、アフリカの全体性に基づく経済統合と自立発展に寄与できるかということです。

現在、アフリカは経済成長しているといわれますが、その内実は未だ、資源価格の高騰と一部の富裕層の旺盛な消費がもたらしているものです。富の分配の仕組みも進んでおらず、産業構造の変化も、一部の国での第三次産業の発展などを除いては、必ずしも進んでいません。その結果、経済的な脆弱性は高いままになっています。アフリカ諸国は、今後、地域統合を強めながら、アフリカに合った形で産業構造を発展させていくことが重要です。例えば農業で言えば、巨大な資本集約型の農業の拙速な導入よりも、多くの人々が従事している家族農業の重要性を認識し、それを称揚し発展させていくことが大事だと考えられます。しかし、たとえば、アフリカ連合の官僚たちに話を聞いてみると、どうも、アフリカに適した形での発展を志向しているようには思えないところがあります。旧ソ連のコンビナートのように、遠く離れた発電所と工業都市を無理やり結びつけるとか、アフリカの拠点都市を新幹線のような高速鉄道で結ぶといった、いわゆる重厚長大型の開発イメージを強く持っている人も多いようです。

私が最初に「パン・アフリカニズム」といったのは、つまり、植民地時代の名残として、54ヶ国に分かれているアフリカ諸国が、かつてのように無理な政治的な統合を試みて失敗するのではなく、アフリカ連合と地域経済共同体をベースとした緩やかな経済統合によって、これまでの資源輸出型経済を脱却して、一定規模の域内経済をもついくつかの自立的な地域のまとまりへと発展していくこと、それが「アフリカ連合」というアフリカの全体性を担保する枠組みによって支えられること、それにより、「ポスト植民地期」から新しいアフリカの時代へと移行していく、そのプロセスを日本として応援できないか、という趣旨です。

こうした新しいアフリカの在り方を考え、また、アフリカの経済成長を考える上では、政府の能力の向上、透明性を確保し、腐敗を軽減していくことが何より重要です。そのために最も重要な役割を果たすのが、一つには市民社会、もう一つには自由なメディアの発展です。日本がアフリカの開発を支援していくうえで挑戦した方が良いのは、この方向で支援のもう一つの柱を作ることです。政府とは異なる、アフリカの市民社会との連携のチャンネルを開くことを、日本の市民社会としても提案していかなければなりません。

【問】2015年9月、国連総会にて持続可能な開発目標(SDGs)が採択されました。稲場さんはSDGsの実施に取り組むNGOネットワーク「動く→動かす」の事務局長も務められています。次回のTICAD VIにおいてもアフリカにおける持続可能な開発が主要なテーマになっていくのでしょうか。

【稲場】現状のアフリカ開発の中には、持続不能な形で、乱開発として行われている者も多くあります。もちろん持続可能性の確保は重要なテーマとなるでしょう。アフリカ開発における持続性をどのように捉えるのかということがポイントです。また、今後は人口の爆発的な増加も予測されており、どう対処していくのかという点も注目されています。この状況下で、SDGsのゴール16「平和、法の正義、有効な制度」の重要性が増してくると考えています。つまり、アフリカ開発において市民社会をどのように育成し、生かしていくかということが、アフリカにおける持続可能な開発のカギを握るということです。現在の技術レベルや教育レベルに見合った堅実な開発のステップを踏むべく、開発の方針を再検討する必要があると考えています。

【問】最後に、TICAD VIに向けた市民社会のかかわり方に関する展望をお聞かせください。

【稲場】開催まで1年をきり、TICAD VIに向けての準備状況としては厳しいです。しかし、アフリカの市民社会との連携は強く進められるようになり、この点を十分に生かしたいと考えています。来年はG7サミット終了後のTICADということもあり、その機会を活用できるよう模索中です。日本の市民社会としてするべきことを実行していきます。

本日はどうもありがとうございました。

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